H27年 7:抵当権の処分 8::同時履行の抗弁権

【 問 7 】 抵当権の処分
債務者Aが所有する甲土地には、債権者Bが一番抵当権(債権額2,000万円)、債権者C
が二番抵当権(債権額2,400万円)、債権者Dが三番抵当権(債権額4,000万円)をそれぞれ
有しており、Aにはその他に担保権を有しない債権者E(債権額2,000万円)がいる。甲土地
の競売に基づく売却代金5,400万円を配当する場合に関する次の記述のうち、民法の規定
によれば、誤っているものはどれか。

1.BがEの利益のため、抵当権を譲渡した場合、Bの受ける配当は0円である。

2.BがDの利益のため、抵当権の順位を譲渡した場合、Bの受ける配当は800万円である。

3.BがEの利益のため、抵当権を放棄した場合、Bの受ける配当は1,000万円である。

4.BがDの利益のため、抵当権の順位を放棄した場合、Bの受ける配当は1,000万円である。
 
【解説】 正解:2
最初に、抵当権の譲渡・放棄や抵当権の順位の譲渡・放棄がなかった場合に、誰がいくらの
配当を受けるのか、を確認しておく。これが出発点である。
本問の場合、競売に基づく売却代金が5,400万円である。したがって、一番抵当権者のBは
2,000万円、二番抵当権者のCは2,400万円とそれぞれ債権額全額の配当を受けることができる。
三番抵当権者のCは、債権額(4,000万円)の一部である1,000万円の配当しか受けることができない。
ここまでで5,400万円の配当が終了する。無担保債権者であるEは、一切の配当を受けることが
できない。

権利者 債権額 本来の配当
一番抵当 2,000万 2,000万
二番抵当 2,400万 2,400万
三番抵当 4,000万 1,000万
担保権なし 2,000万 0
1 正しい
BがEの利益のために、抵当権を譲渡した場合、BE間では、E→Bの優先順位で配当がなされる。
具体的な計算手順は、以下のようになる。

B・Eの本来の配当額を合計する(2,000万円+0円=2,000万円)
この金額を、まずEに配当する(2,000万円)
残りがあればBに配当される(本肢では、残りがないのでBへの配当は0)
2 誤り
BがDの利益のために、抵当権の順位を譲渡した場合、BD間では、D→Bの優先順位で配当がなされる。
具体的な計算手順は、以下のようになる。

B・Dの本来の配当額を合計する(2,000万円+1,000円=3,000万円)
この金額を、まずDに配当する(3,000万円)
残りがあればBに配当される(本肢では、残りがないのでBへの配当は0)
3 正しい
BがEの利益のために、抵当権を放棄した場合、BE間ではどちらも優先しない。二人への配当額全体をそれぞれの債権額の割合に応じて配分する。
具体的な計算手順は、以下のようになる。

B・Eの本来の配当額を合計する(2,000万円+0円=2,000万円)
BとEの債権額の比率を求める(B:E=2,000万円:2,000万円=1:1)
比率に応じて配当する(Bに1,000万、Eに1,000万)
4 正しい
BがDの利益のために、抵当権の順位を放棄した場合、BD間ではどちらも優先しない。二人への配当額全体をそれぞれの債権額の割合に応じて配分する。
具体的な計算手順は、以下のようになる。

B・Dの本来の配当額を合計する(2,000万円+1,000円=3,000万円)
BとDの債権額の比率を求める(B:D=2,000万円:4,000万円=1:2)
比率に応じて配当する(Bに1,000万、Dに2,000万)
■類似過去問(抵当権の処分)



【 問 8 】 
同時履行の抗弁権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものは
いくつあるか。

ア マンションの賃貸借契約終了に伴う賃貸人の敷金返還債務と、賃借人の明渡債務は、
 特別の約定のない限り、同時履行の関係に立つ。

イ マンションの売買契約がマンション引渡し後に債務不履行を理由に解除された場合、
 契約は遡及的に消滅するため、売主の代金返還債務と、買主の目的物返還債務は、
 同時履行の関係に立たない。

ウ マンションの売買契約に基づく買主の売買代金支払債務と、売主の所有権移転登記
 に協力する債務は、特別の事情のない限り、同時履行の関係に立つ。

1. 一つ  2.二つ  3.三つ  4.なし
 
【解説】 正解:1

ア 誤り
敷金は目的物(建物)明渡義務を履行するまでの賃貸人の賃借人に対する全ての債権を担保するものである。したがって、明渡義務が先履行義務であり、明け渡すまでは敷金の返還請求権が発生しない(最判昭48.02.02)
建物明渡しと敷金返還とは同時履行の関係に立たない(最判昭49.09.02)。

■類似過去問(同時履行の抗弁:建物明渡しと敷金返還)
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イ 誤り
売買契約が債務不履行を理由に解除された場合、売主の代金返還義務と買主の原状回復義務とは同時履行の関係に立つ(民法546条、533条)。
したがって、Bは、自らの原状回復義務とAの代金返還義務とを同時履行すべきことを主張することができる。

■類似過去問(同時履行の抗弁:契約の解除・取消し)
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ウ 正しい
売買契約は双務契約であり、各当事者の義務履行は同時履行の関係にある(民法533条)。
具体的にいえば、買主の売買代金支払債務と売主の引渡しの義務や所有権移転登記に協力する債務は、同時履行の関係に立つ。

■類似過去問(同時履行の抗弁:基本構造)
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まとめ
以上より、正しいものはウのみである。正解は、肢1。