H29年 1:代理・復代理 2:所有権の移転・取得

【 問 1 】 代理・復代理

 代理に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1.売買契約を締結する権限を与えられた代理人は、特段の事情がない限り、相手方から
 その売買契約を取り消す旨の意思表示を受領する権限を有する。

2.委任による代理人は、本人の許諾を得たときのほか、やむを得ない事由があるときにも
 、復代理人を選任することができる。

3.代理人が委任事務を処理するに当たり金銭を受領し、これを代理人に引き渡した
 ときは、特段の事情がない限り、代理人に対する受領物引渡義務は消滅するが、本人
 に対する受領物引渡義務は消滅しない。

4.夫婦の一方は、個別に代理権の授権がなくとも、日常家事に関する事項について、他
 の一方を代理して法律行為をすることができる。


【解説】  正解:3

1 正しい
 売買契約締結の代理権を与えられたということは、買主との間で、「売る」「買う」といった
意思表示のやり取りをする権限を持っているということです(民法99条)。
 この代理人は、相手方からの「売買契約を取り消す旨の意思表示を受領する権限」も持
ている、と考えるほうが自然です(取消しの意思表示だけは、本人に宛ててしなければ
ならない、というのはヘンです)。
 判例の結論も同じです(最判昭34.02.13)。

2 正しい
 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなけ
れば、復代理人を選任することができません(民法104条)。

3 誤り
 委任による代理関係において、受任者(代理人)は、委任事務に当たって受け取った物
を委任者(本人)に引き渡す義務を負います(民法646条1項)。代理人と復代理人との間
にも同様の委任関係がありますから、復代理人は、受領物を代理人に引き渡す義務を負
っています。さらに、復代理人は、本人に対して、代理人と同一の義務を負います
(同法107条2項)。ということは、復代理人は、受領物を本人に引き渡す義務も負っている
ことになります。つまり、復代理人は、受領物を(1)代理人に引き渡す義務と(2)本人に引き
渡す義務の2つの義務を負っているわけです。

 本肢の復代理人は、受け取った物(金銭)を(1)代理人に引き渡しています。これにより、
代理人に対する受領物引渡義務は消滅します。それでは、(2)本人に引き渡す義務は、ど
うなるでしょうか。こちらの義務も消滅する、と考えるのが自然です。受領物を代理人に引
渡したにも関わらず、本人にも引き渡す義務がある、というのは、復代理人に二重の負担
を貸すことになるからです。また、例えば、引渡しの対象が不動産だったような場合を考え
ると、代理人・本人の双方に引き渡すのは、そもそも不可能です。

※ これと同じ結論の判例がありますが(最判昭51.04.09)、それを知らないと解けない、
 というほどの問題ではありません。

4 正しい
 日常家事に関する事項というのは、例えば、生活必需品を買う、とか、子供の教育費用を払う、
といった事項のことをいいます。日常家事に関する法律行為から生じた債務について、民法は、
「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって
生じた債務について、連帯してその責任を負う。」と定めています(同法761条。左図)。この連帯
責任を根拠に、夫婦は日常家事についてお互いに代理権を有する、と考えるのが判例の立場
です(最判昭44.12.18)。




【 問 2 】 所有権の移転・取得

 所有権の移転又は取得に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、
正しいものはどれか。

1.Aの所有する甲土地をBが時効取得した場合、Bが甲土地の所有権を取得するの
 は、取得時効の完成時である。

2.Aを売主、Bを買主としてCの所有する乙建物の売買契約が締結された場合、Bが
 Aの無権利について善意無過失であれば、AB間で売買契約が成立した時点で、B
 は乙建物の所有権を取得する。

3.Aを売主、Bを買主として、丙土地の売買契約が締結され、代金の完済までは丙
 土地の所有権は移転しないとの特約が付された場合であっても、当該売買契約
 締結の時点で丙土地の所有権はBに移転する。

4.AがBに丁土地を売却したが、AがBの強迫を理由に売買契約を取り消した場合、
 丁土地の所有権はAに復帰し、初めからBに移転しなかったことになる。


【解説】正解:4

1 誤り
 時効の効力は、その起算日にさかのぼります(民法144条)。本肢のケースでいうと
、Bが甲土地の所有権を取得するのは、取得時効の完成時ではなく、占有開始時と
いうことになります。このように考えないと、時効完成までの占有が不法なものとなり
、使用料や損害賠償を請求されることになってしまうからです。

2 誤り
 Cの所有物を、AがBに売却するようなケースを他人物売買といいます。民法は、
このような契約も契約として有効と扱っています(同法560条)。

 しかし、この契約が有効だからといって、AB間で契約を締結しただけで、物の所有
権がBに移転するわけではありません。他人物売買契約に基づき、Aは、Cから乙建
物を取得し、これをBに移転する義務を負うというだけのことです(同法560条)。
 Bが乙土地の所有権を取得することができるとすれば、それは、AがCから乙不動産
の所有権を取得した時点ということになります(最判昭40.11.19)。

☆「他人物売買の有効性」というテーマは、問05肢4でも出題されています。

3 誤り
 物の所有権は、原則として、契約締結時に移転します(民法176条)。ただし、当事者
間に特約がある場合には、その特約が優先します(最判昭38.05.31)。本肢では「代金
の完済までは丙土地の所有権は移転しないとの特約」があります。したがって、所有
権が移転するのは、代金完済時点です。

4 正しい
 強迫による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。そして、取り消さ
れた行為は、初めから無効であったものとみなされます(同法121条本文、左図)。
したがって丁土地の所有権はAに復帰し初めからBに移転しなかったことになります。

【関連知識】取消しと無効
 取り消しできる行為であっても、一応は有効に成立しています。この行為につき、
取消権を有する人が取り消した時点で、当初にさかのぼって無効だったことになる
のです。一方、無効な行為には、当初から何らの効力も認められません。